令和三年十二月号2021年5月より毎月1号、三河湾の旬をお届けします。
冬が訪れ肌寒くなれば、三河湾名物トラフグの季節です。春先までの間、天然物が篠島より揚がります。フグは養殖であれば毒を持たないため、割と身近に手に入るかもしれませんが、天然物は猛毒を持つことから資格保有者でないと捌くことができず大変高価で貴重です。今月の「三河湾魚便り」はトラフグについて取り上げたいと思います。
毒
フグと聞くとまず浮かぶのがテトロドトキシンという猛毒についてではないでしょうか?
これは実は、フグが元々体内に持っている毒素ではありません。捕食の関係から、フグが餌にするヒトデや貝類などを経由して体内に取り込んでしまいます。しかしこの毒素も無駄に取り込んでいるわけではありません。フグは元々すごく凶暴な魚です。そのため、毒素を体内に取り入れることで麻薬のような役割を果たしていると言われています。養殖で育てる際には毒素を入れたく無いため、歯を抜く措置がされるほど、麻薬としての毒素がなければお互いに噛みつき傷つけあってしまいます。
他にも、雌が卵巣に毒素を蓄積していくことでフェロモンの役割を持ち、雄を誘き寄せる効果もあると言われています。一口に、毒と言っても様々な効果があり、これらによって私たちは美味しい天然物のフグにありつけるとも考えられるのが面白いところです。もちろん、人間は少しでも食べただけで致死量となってしまうので、決して口にしてはいけません。
※下の写真は天然物、特大サイズのトラフグです。
食べ方
食べられない部分は、主に内臓系と卵巣です。その他は食べられる部位が多いのがフグの特徴です。もう少し寒くなってくると白子が大きくなり絶品です。その他、頭を割って煮付けにしたり、ひれ酒という楽しみ方もあるでしょう。すし人三篤でのこの時期はテッサとテッピをつまみとしてご提供させていただきます。(フグは凶暴なことから別名、鉄砲と呼ばれ、鉄砲+刺身でテッサ、鉄砲+皮でテッピと呼ばれるようになりました。)
朝篠島で揚がったものを仕入れ、できる限り鮮度の高い状態で食感を楽しみます。養殖物も美味しいのですが、やはり比べてしまうと天然物の食感や甘味にはかないません。よくある薄造りに比べ、天然物の良さを活かすために気持ち分厚めに切りつけます。テッピは軽く湯引きし細造りに。ポン酢と紅葉おろしなどの薬味とともに提供します。
トラフグというと、下関などが有名に思われるかもしれませんが、実は東海地方で国内の6割が揚がります。その中でも特に天然物となると三河産が有名です。かつては三河のトラフグを下関へ持って行き下関産と謳って提供されていたという話もありますが、それほど三河のトラフグは絶品だと言えます。
延縄漁業で揚がる貴重な天然物は、死後24時間〜36時間で旨味成分が最大となることから、篠島で揚がってその日に手に入る地の利を楽しまないわけにはいきません。すし人三篤では、朝揚がったものを市場から仕入れ、できるだけ鮮度が高いうちに提供します。包丁が跳ね返ってくるほどの身の弾力と、天然物ならではの甘味を是非味わっていただければと思います。