令和三年八月号2021年5月より毎月1号、三河湾の旬をお届けします。
天然と養殖についての議論は様々あるかと思いますが、少し違った視点で見なければならないのが今回取り上げる鰻の天然と養殖の違いです。単にどちらが良い悪いでは片付けられない鰻に関しては、もしかすると天然と養殖を別々の魚として考える必要があるかもしれません。今月の「三河湾魚便り」は愛知県形原で揚がる天然鰻がどのように養殖と違うかにフィーチャーしたいと思います。
養殖
まずは養殖の特徴についてです。サイズは30cmぐらいのものが一般的で太さも500円玉ぐらいの直径をイメージすると分かりやすいかもしれません。このぐらいのサイズだと鰻丼並みで2人前、上で1人前ととても使いやすく、身の厚さもタレと白米のバランスとして良いものとされています。スーパーに限らず、市場などでも一番多いサイズがこのサイズで養鰻場から出荷されるものです。食べやすさの他にも狙ったサイズで安定供給することができ、旬というものがないほどに年中美味しい鰻を食べることができます。
もちろん、近年話題になるように国内の鰻の稚魚が年々獲れなくなっていることなどから、養鰻場も閉業してしまうところが増えています。その為、養殖ものと言えど希少価値は上がっていて、鰻店へ行くと値上げしましたというご案内をよく見かけます。代替品として中国をはじめとする海外産のものも増えていますが、そのクオリティも年々上がっていると感じています。それだけ、この鰻市場というものが一つのホットなものであることは世界的に見ても疑いの余地はありません。
天然
ここからは今回取り上げる天然物についてです。それも愛知県の形原で揚がる=海で揚がる天然物です。養殖に関して希少価値が上がっているということは、ただでさえ珍しい天然物、そして海で上がる所謂「くだり鰻」は更に珍しく、より希少価値が上がっています。別名「銀鰻」と呼ばれるほど、形、色が全く違い、身はいぶし銀色をし、胸鰭などは黒く、太さは人間の腕ほどで、一見恐怖を感じるほどです。
秋に産卵をするために水温が下がる海へ向かっていく鰻で、やはりその大きさに特徴があります。産卵を終えた後の冬からは冬眠する為、今の時期から秋までが唯一の獲れる時期となります。そしてこの夏の時期のくだり鰻は、魚体が50cmにもなるのですが新子と呼ばれ、サイズ的にも一番美味しく食べられる時期だと考えます。もう少し秋が近づくと、身が大きくなりすぎて皮が分厚く、また骨も太くなってしまう為食べるのことが少し困難になってしまいます。その為、この夏の海であがる天然鰻の新子は本当に貴重なものになるわけです。
天然くだり鰻の味
食べ方は三河地方で一般的な三河焼きです。白焼にした後、少し置き余熱で火をいれます。こうすることで皮も柔らかくなり、身もふわふわになります。そしてお客様に提供する直前に醤油ベースの照りを付けパリパリに焼き上げます。養殖ものとはサイズが全く異なる為、その身の食感は格別です。元々三河地方では鰻を鮨にする習慣がありますが、この天然物は鮨にするには少々身が厚すぎる為、当店ではつまみで提供します。
脂がしっかりのった天然物に毎回継ぎ足しでタレを作っていくので、このタレ自体もどんどん美味しくなっていきます。海の鰻は、川に比べて綺麗な環境で育っている為、川鰻特有のいい意味での土臭さみたいなものがほとんどありません。これは好き嫌いになってしまうかもしれませんが、香りは少なく、どちらかというと良質な脂と独特の食感を楽しむのが天然鰻だということかもしれません。
それにしてもほとんど手に入らない希少な天然鰻。常に入荷できるわけではないため、この時期だからと言って必ず提供できるわけではありません。それでも形原で揚がったという連絡が来た際には利益度外視で必ず仕入れています。この時期だけの天然鰻を是非楽しみにしていただければと思います。ご来店いただく皆様にお楽しみいただければと思うのですが、入荷するかどうか分からないという希少性も天然物の楽しみの一つといして捉えていただければと思います。