三河湾 魚便り

浅蜊

littleneck clam

令和四年二月号2021年5月より毎月1号、三河湾の旬をお届けします。

2月に入り幡豆からアサリの初物が登場です。幡豆から始まり、西浦、佐久島と採れる場所を移しながらどんどん個体が大きくなりますが、初物はやはり縁起の良いものです。幡豆は最初に料理を覚えた修行先だった場所であり、名物のアサリの下処理や仕込みを毎日10kg以上していたことから思い出深い食材でもあります。今月の「三河湾魚便り」は今からが旬のアサリにフィーチャーしたいと思います。

アサリの初物

まず初物の特徴はまだ殻が柔らかく、採れた時にそのいくつかは殻が割れてしまっている外観にあります。アサリが成長過程であることが伺え、これが3月、4月となればどんどん成長しより大きく硬い殻をもつアサリになります。味で言えば、大きくなれば大きくなるほど濃くなっていきます。ただし、濃いから旨いというわけではなく、それぞれ良さがあり好みも分かれるところです。今の時期のアサリはバランスが良く、出汁を取れば濃すぎることもなく様々な料理とも相性が良いと言えます。

 

 

三河のアサリ

郷土料理といっても過言ではない「アサリの酒蒸し」は三河地方の食べ方の定番中の定番です。シンプルにお酒だけで炊き、素材の味を活かしたこの食べ方はアサリの旨味を存分に味わうことができます。幡豆町はその地形から波が静かで、かつ潮の流れが二方向から集まってくるようになっているため、アサリの餌であるプランクトンが豊富に流れてくると言われています。良質なアサリはその地形によるものであり、その素材の味を活かした酒蒸しが定番と言うことから、土地、文化、食というものがいかに繋がっているのかを感じられるのも面白いところです。もちろん料理方法としては他にも味噌煮であったり、赤だしなどがあります。名古屋の名物、味噌煮込みうどんにも季節限定メニューとしてトッピングされることもあります。

 

赤だしを提供する際に、岡崎と言えば八丁味噌ではありますが、すし人三篤では敢えて田舎味噌を使います。八丁味噌は3年以上の発酵過程を通じて味噌単体として非常に美味しいものになっています。その為、アサリの出汁を味わおうとしたときに少し主張がぶつかり合ってしまうと考えます。田舎味噌を普段赤だしを作る時と比べて、やや少なめにし、昆布と鯖のむろぶしで引いた出汁と合わせることでアサリの旨味をしっかり味わうことができます。時期が変わりアサリが大きくなれば、ほとんど味噌は使わずに出汁を全面に押し出した赤だしへと調整していきます。赤だしの味噌の量をひとつとってもレシピ化するのは難しく、その都度素材の持つポテンシャルをいかに引き出しながら全体として美味しい一品を作れるかという試行錯誤をしています。

漢字で「浅蜊」と書くこの貝は、読んだままではありますが、海の浅いところで採れます。「砂利(じゃり・さり)」から来るという説や、海辺で食べ物を「漁る(あさる)」から来るというように諸説ありますが、
どれも共通して海の浅いところで採れるということが窺えます。先月、幡豆を訪ねた際には穏やかな海を見ながら、ここでもうすぐアサリが採れるのかと心待ちにしていました。2月に入り今年も美味しいアサリが揚がっています。比較的小ぶりな今の時期から(と言ってもスーパーで見るアサリよりは一回りも二回りも大きいのですが)、しっかりと身は詰まっていて美味しい出汁も出ます。その時々のアサリの質も見極め最高の状態と調理法でご提供させていただきますので、是非お楽しみいただければと思います。

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