三河湾 魚便り

新イカ

baby squid

令和三年九月号2021年5月より毎月1号、三河湾の旬をお届けします。

イカは季節を教えてくれるネタです。様々な種類のイカがそれぞれ旬を持ち、イカを食すことはそのまま季節を感じることでもあります。今回取り上げる新イカは「秋の訪れ」を告げるイカ。魚体は非常に小さく5cmほどです。ダイオウイカが10mを超えることを考えると一括りにイカと言ってもその大きさの違いはとてもダイナミックです。小さくても鮨屋にとって欠かせない新イカ。今回はこちらを取り上げたいと思います。

 

特徴

新イカはスミイカ(コウイカとも)の新子です。成長したスミイカは魚体が20cmほどあり、その身は分厚くサクサクとした食感が特徴的です。スミイカが春を過ぎると産卵期を迎え、この秋の始まりに新子となって師崎港から揚がり始めます。まさに今の時期(9月中旬頃)から出始め、魚体は鮨一貫にちょうど良いサイズです。新イカを一杯丸っと使いシャリを包み込むような形で握りを完成させます。これから少しずつ魚体が大きくなるため、一杯で二貫握ることもありますが、出始めの新子はやはり特別です。

色は純白。薄皮もほとんどなく、表面が綺麗にツルッとしています。他のイカは何枚も張った薄皮を剥がしていかないと口に当たってしまいますが、新イカの表面はたった一枚の薄皮を剥がすのみ。その他不純物の一切ない身の美しさは、新イカならではです。

 

仕込み

新イカは以前に取り上げたアオリイカとは全く違う手当てを施します。身が薄く甘みの増幅が見込めないことや、表面のサクサクした食感を楽しんでいただきたいという理由から熟成は施しません。殆ど鮮度で決まってしまう新イカは仕入れたその日が賞味期限だと考えます。なので潔く直球勝負。仕入れてからすぐに掃除をし、あとはお客様に提供するまで冷蔵庫で保管、その日に全て使い切ってしまいます。

 

この季節だとスーパーなどでも見かけますが、獲れてから一日経っただけでその食感はほとんどなくなってしまい、味も甘みが強いわけではありません。この新イカの特徴を最大限に味わうには鮮度との勝負になるのです。

 

寿司屋にとっての新イカ

アオリイカよりはサッパリしているけれど、ケンサキイカよりはねっとりとしていて、成長したスミイカほど身は分厚くないけれど、そのサクッとした食感は残す万能タイプの新イカ。何かに特別秀でているわけではないのですが、今の時期には鮨屋にとって欠くことのできないネタです。

 

もちろん秋の訪れを知らせてくれるという点、またサイズ感から鮨との相性が良いことも挙げられます。しかし何よりの理由は毎日市場へ足を運び、仕入れてからその日に使い切るという鮨屋にしかできない芸当でのみ、本当の美味しさを味わっていただける点にあると感じています。鮨屋にとっては直球勝負であるからこそ、技術だけでなく仕入れや鮮度等の側面を試されるような嘘偽りが一切通用しないネタです。

 

すし人三篤では、このシンプルなネタをよりシンプルに味わっていただくために印籠握りにして粗塩を振るのみで提供します。綺麗で純白なビジュアルから、仕込み、味付け、提供まで全て潔く。シンプルだからこそ鮨屋としての総合力が試されるネタだと感じています。

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