三河湾 魚便り

真鯖

mackerel

令和三年十月号2021年5月より毎月1号、三河湾の旬をお届けします。

鯖街道をご存知でしょうか?

福井県の若狭湾から京都までの物流ルートのことで、鉄道網が張り巡らされる以前から一日がかりでたくさんの物が人の手によって都に運ばれていました。なかでも、海の幸がなかなか手に入らなかった京都の人たちにとって、若狭湾で塩締めされた塩サバは大変貴重で、この物流ルートを通ってくる物資の多くが鯖であったことから鯖街道と呼ばれるようになりました。

鯖というと、その種類や食べ方、背景にある歴史や文化など沢山のストーリーを持つ魅力たっぷりの魚です。今月の「三河湾魚便り」はこの鯖の中から一般によく食べられる真鯖を取り上げたいと思います。

 

特徴

秋に一番美味しくなるのが真鯖。年中揚がる魚ではありますが、今の時期から冬までにかけて三河湾、伊良湖沖や師崎で揚がる真鯖の脂は最高の状態となります。魚体は50cmほどになりその中から特に身が厚く、腹が固いものを厳選して仕入れています。鯖は身がもろく、鮮度が悪くなると溶けたり割れてしまいます。腹の硬い鯖は身がパンパンに活きた状態なので、腹の状態で鮮度を測ることができるというわけです。この鮮度抜群の鯖を塩で締め、酢で締め、その後最低でも二日以上は寝かせることで身が赤に近い色からピンク色になります。脂が回ってきた証拠です。

 

鯖の背景

バッテラ、箱寿司、押し寿司など様々な握りとは違った食べ方をする鯖。すし人三篤では棒鮨という形で提供しています。そしてこの棒鮨のルーツは京都にあります。冒頭で触れましたが、京都は冷蔵庫や鉄道のない時代、海への地理的なアクセスが悪く、生で魚を仕入れることはほぼ不可能でした。そこで若狭湾で塩締めし腐敗の原因である水分がしっかり抜かれた鯖を仕入れて海の幸を味わっていました。しかしこの塩サバ、到着まで一日経つ頃には塩が回って焼き魚にはできたとしても刺身でたべるにはどうしても塩辛くなってしまいます。そこで登場するのが酢です。酢で締めることは殺菌作用がありますが、これに加え、身の中に入り込んだ塩を適切に抜くという狙いもあります。ちょうど良い塩分濃度に調整し旨みを最大限に引き出した状態、そしてそれを生で食べる為の知恵によって生まれた食べ方が酢鯖なのです。地理的な理由から、その魚の特徴などが全て理にかなった状態で現在の姿があると思うとロマンを感じずにはいられません。なぜ京都で棒鮨が生まれたのか、なぜ塩をするのか、なぜ酢で締めるのか、全てに理由があるということです。

店の色

すし人三篤では棒鮨にした後、皮目を炙り、愛知県の青さのりで挟んで提供します。

鮮度抜群の鯖ですが、やはり青魚特有の臭みというのは100%取り払うことはできません。それを最後に手を加えることで臭みをカバーし、身の旨みをより引き立たせる方法を模索しています。シャリは砂糖を使っていない江戸前の味付けをしているため、身はアッサリと酢で締めます。このあたりのバランスも魚体を見てから全て逆算して決定していきます。例えばシャリに砂糖を入れるお店であればそれに合わせた酢の締め方があるでしょうし、塩分濃度も変わってきます。食べ方も棒鮨なのか、握りなのかで変わってきます。

全ての要素の中から最適解を導くために、経験と知識を総動員して立ち向かうのがこの鯖という食材です。店の個性が直接反映されるので、鯖を食べることでそのお店の方向性がわかるという奥の深いネタかもしれません。是非、すし人三篤の鯖を味わっていただければと思います。

HOME